コーパイの進藤君第4話です。
2~3話をまだ読んでない方は、こちらからどうぞ。
第2話
https://bakusai.com/thr_res/acode=13/ctrid=6/ctgid=156/bid=5817/tid=12694727/tp=1/
第3話
https://bakusai.com/thr_res/acode=13/ctrid=6/ctgid=156/bid=5817/tid=12697669/tp=1/

===第4話===
「引き返します」
「は!? 新藤く~ん(小泉孝太郎)、もいっかい言ってくれる?」
「引き返します」
「もいっかい」
「引き返します」
「ワンスアゲイン?」
「成田に、引き返します」「……了解」
「倉田キャプテン(古田新太)、PAお願いします」
「はいはい」
「すみません、高度12000リクエストもお願いします」
「はいはい合点承知」クリスマスイヴ。とうに雨期は終わったはずのホーチミンシティは、季節外れの暴風雨で荒れていた。
着陸の横風制限ギリギリの風速25m。おそらく視程も最悪に違いない。こんなときにあの子が操縦する便になるなんて。
私(松嶋菜々子)は3ヶ月前のシンガポールを、また思い出していた。「あなた……私をいくつだと思ってるの!?」
「40歳くらいだと思ってます! ちなみに俺……いえ、自分は35なんですけど」
「だったら何だって言うの」
「昨日の、あの人より藤井さんに……その……」あの時思わず席を立ってしまったが、それは腹が立ったからだろうか?
それとも……“軽薄な最近のコーパイ”、と想像していたのと違う感じに戸惑ったからだろうか?ポーンというコックピットからのコールにハッとしてインターホンを取った。
「キャビンへオールコール。キャプテンの倉田です。SGNおよびALT、poor visibilityのためNRTにturn backします。
EATは0430、L2藤井CAはPAX PAをお願いします」……ツイてない。こんな時に乗客にアナウンスしなけりゃならないなんて。
それに……この状況で進藤君が操縦担当なわけ? いくら昇格訓練中で機長dutyだからって荷が重いでしょうに……。<皆様、当機はホーチミン国際空港ならびに周辺空港視界不良のため着陸を中止し、
新東京国際空港、成田へ引き返すことになりました。
ただ今のところ成田への到着予定時刻は午前4時30分を予定しております。ご迷惑をおかけいたしますが……>折からの爆弾低気圧に翻弄され、揺れに揺れた759便は7時間前に出発したばかりの成田空港に戻って来た。
フラップを下ろしてエンジンを切り、チェックリストを読み上げる。
無事に帰って来れた……。
庄司(森田剛)のど阿呆!! 宮澤(塚本高史)のクソ野郎!!
心の中で悪態をつきながらログブックを書いていると、ゲート付近で乗客に囲まれて必死に案内をしている
KI[地上職員]の姿が目に入った。
今日はクリスマスイヴ。なんとしてでも今朝のうちにホーチミンに着いていたかった人も多いだろう。
この忙しい時期に事後の対応に追われる地上職のことを思うと、今さらながら引き返しを決めた自分の責任の重さに押しつぶされそうだった。「お疲れさん」
「倉田キャプテン……」
「こんなところで泣くなよ。抱きしめたくなっちゃうぞ♪」
「キャプテン……これで……よかったんでしょうか」
「ラ教[ライン教官]の諸星さん(井原剛志)がさ、お前の見た目にだまされるなって言ってた意味がわかったよ」
「は?」
「俺をアゴで使いやがって」
「すいません」
「……なかなかタフなPIC[pilot in command=操縦責任者]ぶりだったよ。お前、案外早く左に座る[=機長になる]かもな」
「………」
「だから泣くなって。今日はデブリ[反省会]はナシな。早く帰って彼女に一発やらしてもらえ」
「……彼女はいません」
「あ~も~、萎える反応すんなよ。そのへんのCA一匹つかまえろって。じゃあ、またな。レポートは明日でいいから」
「ありがとうございました」今日はオペセン[オペレーションセンター]に向かう通路はやけに長く、
旧ぱたのうちの投稿より
マニュアルのつまったフライトバッグはやけに重く感じられた。


