コーパイの進藤君(第5話)

コーパイの進藤君第5話です。
2~話4をまだ読んでない方は、こちらからどうぞ。
第2話
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第3話
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第4話
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===第5話===

悪天候の中、一瞬の隙をついて見事にランディングを決める。
誰に何と言われようと慎重すぎる絶対安全策をとって引き返す。
果たしてどちらが“いいキャプテン”か? パイロットの永遠のジレンマだ。
ターミナルからオペセンに向かう通路がやけに長く、フライトバッグと2泊分の荷物の入ったサムソナイトがやけに重かった。

天候の回復を待って後続の代替便に乗務すると規定就業時間をオーバーしてしまうので、俺(小泉孝太郎)の仕事は打ち止めになった。呼び出されて代替便に乗務することになるスタンバイの乗員には、なんとも不運なクリスマスイヴだ。
まっすぐオペセンに帰る気になれず、通路の途中にある空港職員用の休憩スペースに腰を下ろした。いや 、へたり込んだ、と言った方がリアルかも。
いろんな思いがどっと押し寄せて思わず目を閉じていたが、ふと人の気配を感じて顔を上げた。

「おい」
俺の指導担任教官、諸星キャプテン(井原剛志)だった。
「やってくれたな」
「親爺さん……」
厚い瞼の下の、やぶにらみの鋭い目。相変わらず上着のボタンも掛けず、ネクタイを緩めていた。諸星キャプテンは「教官とか機長とか堅苦しい呼び方はすんな。親爺でいい」と言い、俺はキャプテンを親爺さん、と呼んでいた。
親爺さんはネクタイも「黒けりゃなんだっていいんだよ」と、会社のロゴ入りのものではなく、明らかに駅の売店で売っている冠婚葬祭用のワンタッチのやつだった。

「オペセンじゃ、俺の舎弟がやらかしたって話 になってんだ」
「申し訳ありません」
「俺の薫陶の賜物だってな」
「……すみません」
「なんで謝る?」
「いや、その……」
「いい判断だった」
「え?」
「ATB [Air Turn Back=巡航中引き換えし] が最善だった」
「…………」
「よくやった」
「…………」
何か声を出したら本当に泣いてしまいそうで、俺は何も言葉を返せなかった。

「PICとして当然の事をしたのに感極まるとか馬鹿か、おまえは」
「……すみません」
「使え」
「え?」
「俺はもういらん」
親爺さんが制帽を差し出した。
「こいつを被って、自分が左に座った時の事をイメージしてみろ。PICならどうする?って。もちろん家でだぞ。どんなシミュレーターより効果がある」

パイロットの帽子は機長も副操縦士も同じに見えて少し違う。機長の制帽にはツバの部分に月桂樹の刺繍が入っていて、この制帽を被ることは副操縦士の憧れであり目標だ。

「俺はもういらんから、おまえにやる」
「え、でも 貸与品は制服センターに返さないと……」
「阿呆。帽子のひとつやふたつ、なくしたって言やいいんだよ。他の制服はちゃんと返す」
「ちゃんと返す?」
「おまえの指導教官は石井(椎名桔平)が引き継ぐ」
「引き継ぐ?」
「おまえはオウムかなんかか? 気合い入れてやれよ。石井は調査役機長もやってる。俺みたいに甘くないぞ」
「ちょっと待ってください。意味がわかんないんですが」
「今日がラストだった」
「えっ! なんですかそれ! 俺、聞いてません」
「そりゃそうだ。言ってない」
「そんな……」
「心配すんな。同じ空にいる」
「え?」
「どっかの空ですれ違うかもな。そんときはキャプテン同士だといいけどな」
「親爺さん、ちょっと……」

親爺さん はすでに背を向けて歩き始めていたが、思いついたように立ち止まり振り返った。

「お前はいいキャプテンになれる」
「なんなんですか! 親爺さん! 親爺さんはどこ行くんですか!」
「こことは違う空が見たくなってね。ドバイだ。中東だよ」

 

<……ま、また終わりじゃないのか!!(声:古谷 徹)>

旧ぱたのうちの投稿より