コーパイの進藤君 スピンオフ1

どもども皆様こんばんは。お元気でお過ごしでしょうか。
さて、PCの不要ファイルを掃除してましたら、何と「コーパイの進藤君」のスピンオフのファイルがありましたのでオンラインでの保存を兼ねてUPさせて頂きます。

「コーパイの進藤君」って何?という方は、まずはこちらのリンクからお読みください。
第2話:https://bakusai.com/thr_res/acode=13/ctrid=6/ctgid=156/bid=5817/tid=12694727/tp=1/
第3話:https://bakusai.com/thr_res/acode=13/ctrid=6/ctgid=156/bid=5817/tid=12697669/tp=1/
第4話:https://bakusai.com/thr_res/acode=13/ctrid=6/ctgid=156/bid=5817/tid=12703859/tp=1/
第5話:https://bakusai.com/thr_res/acode=13/ctrid=6/ctgid=156/bid=5817/tid=12708816/tp=1/
第6話:https://bakusai.com/thr_res/acode=13/ctrid=6/ctgid=156/bid=5817/tid=12712667/tp=1/

東京芸大の脇を通り、谷中に抜ける細い路地に二人の行きつけのバーがあった。

小林万里(高橋ひとみ)はこのあたりの風情が好きで根津に住んでいたし、諸星智(井原剛志)はもともと三ノ輪の出身なので、二人にとっては馴染みのある土地と言えた。
なにより蒲田や品川と違い、ここでは会社の人間と会うことがなかった。

木製の重いドアを開けると、カウンターだけの狭い店内にはヴェルディのオペラが音量を絞って流れていた。
ジンをベースにヴィオレットクレームとレモンジュース。女が飲んでいたのはaviation という名のカクテルだった。

「いい女の飲む酒だな」
「あなたがお酒を教えてくれたから」
「悪い。遅くなった」
「いつものことでしょ」
注文を受けることもなく、マスター(寺尾聰)が男の前に削っていない氷をひとつ落としたブッシュミルズを置いた。

「何も言わずに決めてしまって」
女の声には咎める調子があったが、冗談ともとれる言い方だった。
「自分ひとりで決めるしかないと思った」
「なんでなの?」
「給料は今の2倍だ」
「あなたがお給料や待遇でトランスファーするなんて誰も信じてないけど?」
「好きなところを飛ばしてくれる。スケジュールや路線のリクエストが通る」
「そんな理由?」
「そんな理由だよ」
「……あなたは会社を憎んでる」
「憎んでない。絶望してるだけだ」
「ちがう。あなたは会社を憎んでる。今あなたが辞めたら会社が困る事を知ってて、志村君(加瀬 亮)をあそこまで追い詰めた会社に仕返ししようとしてる」
「なんで今さら志村の話が出てくるんだ。志村の事は関係ない」
「あなたが女も抱かず、家庭も持たず、人生を楽しまなければ志村君が浮かばれるとでも思ってるの?」
「志村は関係ないと言ってるだろ」

客は諸星と万里の二人だけだった。
マスターは二人の会話が聞こえないようにバックヤードに下がっているらしかった。

「あなたが可愛がってるコーパイの進藤君(小泉孝太郎)」
「別に可愛がってない」
「志村君に似てるわね」
「似てねえよ」
「似てるのよ」
「………」
「うちにあるあなたの荷物はどうするの?」
「とっくに捨てられたかと思ってた」
「まとめてあるけど、そのうち“自然発火”で燃 えるかもね」

俺は、この女のこういうところが好きだったんだ、と諸星は思った。

「向こうで住むところが決まったら送ってくれ」
「あたしにそんな手間をかけさせる気?」
「どうすりゃいいんだよ」

厚いドアを通して、言問通りを走る車のタイヤが軋む音がかすかに聞こえてきた。
明日は予報どおり雪になるかもしれない。

「取りに来てくれたら、そのまま渡せるけど」

諸星は万里を見つめ、その意味を吟味してからうなずいた。

ぱたのうち井戸端会議のまとめ投稿より:そうね – 19/6/6(木) 0:21