コーパイの進藤君 スピンオフ2

どもども皆様こんばんは、MPの独り言のお時間がやってきました。

今日は「コーパイの進藤君」のスピンオフ2をお届けします。

それでは、お楽しみください。

【1536939】コーパイの進藤君 スピンオフ2

NEW そうね – 19/6/6(木) 0:23 –

「中東?」
「ああ、中東」
「なんでまた……」
「ライン教官から外された」
「マジで!? 何やっちゃったのよ〜」
「別に何も。新卒のパイロット訓練生を募集するくらいなら、何百人もクビにした奴らを呼び戻せばいいって山崎訓練部長(長谷川初範)に言っただけだ」
「あ〜ら〜」

諸星(井原剛志)と俺(古田新太)は同期入社だった。二人とも同じような時期にキャプテンになり、同じような時期にライン教官になった。この世界では親兄弟より絆が深い、“同期の桜”というわけだ。もっとも50近くなった今では、たまに会社や会議でこうして会うくらいになってしまった。
その諸星が、会社を辞めて中東のエアラインに転職すると言う。

「だからってさ〜、辞 めなく てもいいじゃないの。教官から外されたからって飛べなくなるわけじゃないんだからさ」
「俺たち767のパイロットのこれからって考えたことあるか?」
「は?」

新しく国際線ターミナルが拡張された羽田空港の駐機場に止まっている会社のボーイング767の機体を、しゃくるように顎で指しながら諸星が言った。

「こいつはそろそろお払い箱だ。今更ウイングレットを付けたところで燃費なんて良くならねえよ。早晩350に代わられる。そのとき俺らっていくつだ?」
「54、5かね」
「その歳になって機種移行訓練はきついだろうな。新しい機種に移行できるんならまだいい。俺のような鼻つまみ者は小型機で子会社のコミューターに出向させられるか、降ろされて地上教官をやらされるのがオチだ ろうな」
「だからって今辞めなくてもいいんじゃないの」
「今だから辞めるんだよ。まだ40代ならあっちの会社は好きな機種の免許を取らせてくれる。カネもふんだんに出してくれる。少なくともあと10年くらいはな。オイルマネーが続く限り」
「やっぱたくさん貰えんのか!?」
「日本で税を払うにしたって手取りはうちの2倍ってところか」
「なんと!!」
「ちなみにドバイに100平米のアコモデーション付きだ」
「あいやーーー!!」
「まあ、それが理由ってわけじゃないけどな。いろんな国の人間と働くことになるし、大変な事の方が多いくらいかもな」
「いや〜だって。それにしたって年収4000万よ?」
「お前が払わなきゃならん慰謝料を考えたら理由になるな(笑)」
「……で も、俺は無理だな」
「別に一緒に行こうなんて言ってねえけど?」
「カネって言うか……俺はこの会社を辞められないよ」
「こんなんなっても親方日の丸が大事か」
「俺の親はさ、三重の田舎もんじゃん? 腐ってもこの会社のパイロットでいることが大事なんだよね。例え子会社でも、うちの会社名が頭にくっついてることが何より重要って言うかさ」
「昔の人はそうかもわからんな」
「親父もおふくろもドバイってどこだか知らねえと思うし」

ふいに諸星は俺から視線をそらして、目の前の駐機場に向けた。
ぼんやりと767を眺める横顔は、笑っているようにも寂しそうにも見えたが、重そうな瞼の彼の一重の目からはうまく感情が読み取れなかった。

「ひとつだけ。いや、ひとり だけ」
「なに!? 心残り!? 女!?」
「進藤が」

進藤(小泉孝太郎)は諸星が主任教官をしている機長昇格訓練生だ。お坊ちゃんふうだが、なかなか気骨のある訓練生であることは先日一緒にフライトして良くわかった。教官としては厳しくて有名な諸星だったが、この進藤だけはなぜか気に入っているようだった。

「進藤が4本線(※機長になって制服の線が4本になること)になるのを見られなくて残念だったな」
「いつ辞めるんだ?」
「早ければ今月中」
「早ええよ!」
「進藤は任せた」
「困るって! っていうかさ! ラストフライトとか送別会とか! 他の同期にも連絡しないと」

諸星は急に立ち上がり、もう一度さっきと同じまなざしを767に向けると、さっと背 を向けて歩きだした。

「おい!待て! だから、送別会とか!」

俺が背中に向かって声をかけると、いらん、というふうに手刀を切るような仕草をしてさっさと歩いて行ってしまった。
さっきの視線。あれは。
「また今度な」と言いながら、その今度が何年も先、あるいはもう今度はないかもしれないことがお互いにわかっている懐かしい旧友に向けるまなざしだった。

西日が映す諸星の長い影が遠ざかり、やがて見えなくなった。

旧ぱたのうち「コーパイの進藤君 まとめ」スレッドより 投稿者 そうね さん - 19/6/6(木) 0:21