【この街ができるまで③】荒れない掲示板を作るのに、悪戦苦闘していました 〜荒らしと常連は紙一重〜

こんにちは、たかしです。

イトキオは匿名掲示板でしたが、2ちゃんねるほどは荒れませんでした。

これ、意外だと思われるかもしれません。でも、理由があります。今回はその話を書きます。少し長くなります。

イトキオは、ケータイ専用の匿名掲示板としてスタートしました。
PCからは、最初は書き込みができません。読むことはできますが、書けない。ケータイからだけです。

なぜそんなことができたかというと、当時のケータイは、必ずキャリアのゲートウェイサーバーを経由してインターネットにつながっていたからです。

いまのスマホだと、家ではWi-Fi、外では回線、みたいに切り替えて使いますよね。

当時のガラケーには、そもそもWi-Fiがありません。ドコモの端末はドコモの網から、auの端末はauの網から。それしか道がないんです。

iモードからのアクセスなら、必ずdocomo.ne.jpから来る。EZwebなら、必ずezweb.ne.jpから来る。

どこの誰が書いているか完全にはわからなくても、少なくとも「ケータイから来ている」ことだけは確実にわかったんです。

さらにEZwebには、特殊な仕様がありました。端末そのもののIDが、こちら側に渡されるんです。

しかも当時、PCでは当たり前だったクッキーという仕組みが、ケータイではほとんど使えませんでした。EZwebだけは、それも使えた。

つまりEZwebのユーザーは、端末単位で識別できたということです。しかもキャリアのゲートウェイを通らないとアクセスできないので、なりすましが事実上できない。回線を変える、という逃げ道がないんです。嫌なら機種を変えるしかない。

前回書いた通り、立ち上げ当初はそのEZwebのユーザーが全体の6割でした。

荒れにくい構造は、この時点でできていたことになります。

それから、名前の表示についても工夫しました。

名前を入れずに書き込むと、匿名の名前が自動で付きます。ここを2種類に分けたんです。
EZwebから書いた人は「名無しさん」。iモードなどから書いた人は「匿名さん」。

匿名のままでも、どのキャリアから書いているかは、他の人にも見えるようにしました。

PCからの書き込みは、そのあと段階を追って開放していきます。ただし登録制にして、IPアドレスとクッキーでユーザー単位で管理する形にしました。

これで、iモードもEZwebもJ-SKYもPCも、全部揃いました。

誰が匿名で書いていようが、コテハンを名乗っていようが、なりすましをしているかどうかは、こちら側では全部わかる。
言い方を変えると、僕は掲示板にいる全員の正体を握っていたということです。

その状態で、サービスを回せるようになりました。

ここからは、もう少し細かい仕掛けの話をします。

前回、書き込みがあるとスレッドが一番上に上がる、という話を書きました。だから更新ボタンを押すと画面が動く、と。

実は、それを切るスイッチも作っていました。
「こっそり」機能です。

2ちゃんねるを使っていた方なら、sageと同じものだと言えば早いと思います。

あちらは名前欄にsageと入力する方式でしたが、イトキオではチェックボックスにしました。ケータイで毎回sageと打つのは、面倒ですから。

チェックを入れて書き込むと、そのスレッドが上に上がりません。

これがあると、掲示板の下のほうで、数人だけで延々と会話ができます。特定のスレッドを、自分たちの掲示板みたいに使える。

たくさんの人を無理やり巻き込んでいく「街で話題」みたいな場所もあれば、隅っこで特定の人とだけ話す場所もある。

みんなでワイワイやる場所と、個別にまったり話す場所を、使い分けられるようにしたわけです。

これも荒れを防ぐ仕組みでした。荒らしは注目されたくて上げに来ますから、上がらない場所には来ないんです。

もうひとつ、キャップという仕組みを入れました。2ちゃんねるにもあった、あれです。

匿名掲示板なので、半分以上の人は名前を入れずに書きます。でも、わざわざコテハンを守って書く人もたくさんいました。

そうすると、需要が出てきます。匿名の人でも「自分だけのIDが欲しい」と思うし、コテハンの人は「なりすましを防ぎたい」と思う。

そこで、名前のあとに#と好きな文字列を入れると、それを暗号化した文字列が名前の後ろに付く仕組みにしました。同じ文字列は、本人しか出せません。だから「これは確かにあの人だ」と証明できる。

なりすましによる騒ぎを防ぐ、大きな仕組みになりました。

ただ、僕はこれだけではつまらないと思ったんです。そこで、キャップにランダムでツッコミが入る機能を付けました。

キャップを使うと星のマークが付くんですが、そこに半角カタカナで一言入る。深夜なら「ハヨネレ」、朝になると「オハヨウ」みたいな感じです。

みんな、なかなか寝ないので。

これが、思った以上に効きました。夜中じゅう話していた人が、ツッコミが出た瞬間に「もう寝る」と言って寝ていくんです。

管理人が「寝なさい」と言えば説教ですが、名前の後ろに勝手に付く文字なら、笑って従えるんでしょうね。

名前まわりでは、もうひとつ仕掛けを入れていました。

僕が書き込むと、名前が「たかし」とひらがなで表示されて、リンクが付きます。管理人が書いたものだと、ひと目でわかる。守っていたのは、名前ではなく肩書きのほうです。

誰かが「管理人」と名乗って書き込むと、「似非管理人」と表示されます。削除人も同じで、「似非削除人」になる。なりすましを禁止するのではなく、自動で「似非」を付けて、そのまま出す。

偽物だと書くと角が立ちますが、似非なら少し笑えます。取り締まるより、そのほうがいいと思ったんです。

今にして思うと、このあたりの仕組みは、いまのDiscordのロールとか、Xやインスタ等のSNS認証マークみたいなものの原始的な形だったんだろうなと思います。

コミュニティの中で「この人が誰なのか」を示す方法を、当時はみんな手探りで作っていました。

さて、ここまで散々、仕組みの話をしてきました。

誰が書いたか全部わかる。なりすましもできない。荒らしが上げに来ても、上がらない場所がある。
準備は万全です。

ところが、です。

実際に削除しなければならないような問題は、当初はほとんど起こりませんでした。あれだけ用意した仕組みが、ほとんど出番なしです。

揉めていたのは、だいたいアンチの話です。

エンターテイメントのカテゴリでジャニーズとアンチジャニーズが戦う。野球のカテゴリで巨人ファンとアンチ巨人が戦う。そういうやつです。特定のユーザー同士が誹謗中傷をやり合うようなことは、そこまでありませんでした。

たぶんこれ、技術のおかげではありません。ガイドをちゃんと書いていたことが大きかったと思っています。

当時のガイドに、僕は「長老」という言葉をよく使っていました。

イトキオを2ヶ月使ったら、あなたはもう立派なご長老です、と。初心者に優しく対応してあげてください。いざこざがあったら調停してみてください、と。

それから、こうも書いています。イトキオの主力ユーザーは10代です。くだらないと感じる発言や、子どもじみた発言もあるかもしれません。でも過剰に反応せず、なるべく温かい目で見守ってあげてください、と。

荒らしを取り締まる文章ではなく、荒らしに反応しないようお願いする文章です。
これが、いちばん効いていたんじゃないかと思います。

それと、これは僕の性分の問題なんですが、書き込みを消すのが、いやでいやで仕方なかったんです。
前回書いた通り、当時はパケット代が使った分だけかかります。1行書くのにもお金がかかる。月に10万円払っている人だっている。

その人が、お金を払って書いた1行を、僕が消す。どうしてもできませんでした。

だから、削除は本当に必要な最小限しかしない、と決めていました。それはガイドにもはっきり書いています。

そのガイドには、パケット代のことも何度も書きました。無駄な書き込みや競争はやめましょう、月の後半はみんな通信料を使いすぎてアクセスが減ります、といったことです。

いま読み返すと、掲示板の管理人が書く文章としては、ちょっと変です。もっと書け、と言うのが普通ですから。

さて、そんなことを言っているうちに、ユーザーが増えてきて、だんだん僕の手が回らなくなってきました。

そこで、2ちゃんねるの仕組みを参考にしました。

まず、削除依頼のカテゴリを作りました。消してほしいものがあったら、そこに公開で書いてもらう。それを見て僕が対応する。それも追いつかなくなって、削除人を採用することにしました。

表にはほとんど出していませんが、非公式に募集したら、何人か応募が来ました。

ここが、いちばん悩んだところです。

削除人というのは、人の書いたものを消せる人です。管理人とは別に、消す力を持った人がコミュニティの中にいることになる。
それが誰なのか、みんなが知っている。

そうなったら、その人は確実に偉くなります。ヒエラルキーができる。

僕はそれが、心底いやでした。

なので、削除人になる人には、こうお願いしました。

お寺で修行している人とか、ボランティアの人が、朝まだみんなが寝ている時間に、始発が走り出す前の駅前でゴミを拾っている。ああいう仕事だと思ってほしい、と。

誰にも気づかれないところで消してください。そして、自分が削除人であることを、絶対に誰にも言わないでください。

それを究極の秘密として約束できる人だけを、削除人にしました。

いま思うと、ずいぶんな話です。

報酬は出していません。それどころか、パケット代も自腹です。見回って、消すべきものを探して、消す。その通信料は全部、その人が払っている。自分でお金を払って、他人の書き込みを消してくれていたわけです。誰にも言えないまま。

しかも、僕はこの作業をPCからやっていました。大きい画面で、通信料も気にせず。

一方の削除人たちの大半は、ケータイからです。小さい画面を1行ずつスクロールして、開くたびにお金を払いながら、消していた。

同じ仕事のはずなんですが、まるで違います。本当にありがたい存在でした。

さて、そうやって体制を整えていたんですが、荒れは少しずつ増えていきます。特に若い層で、荒れた書き込みをする人が増えてきました。

それと、これは完全に僕の失敗なんですが、他のサイトを批評するカテゴリを作ったんです。そうしたら、よそのサイトで普通に書き込みにくいことを言いたい人たちが、イトキオに来るようになりました。そして掲示板を荒らしていく。

このカテゴリは、2ヶ月で閉じました。

そんな中で作ったのが、お仕置き部屋です。

さっき書いた通り、ユーザーの管理はこちら側で全部できています。誰の書き込みを止めるかも、僕が握っています。

なので、まず書き込みを規制するユーザーのリストを作りました。リストに入った人は、書き込みができなくなる。

ただ、それでも収まらない。

そこで思いついたのが、規制していること自体をコンテンツにしてしまおう、ということです。

お仕置き部屋というカテゴリを作りました。
そこは、書き込みを規制されているユーザーだけが書き込める場所です。

規制された人たちは、そこで吠えるような書き込みをしています。それを普通のユーザーが覗きに行けます。ツッコミを入れることもできます。お仕置き部屋の中でだけは、規制されている人と普通の人が会話できる。でも、それ以外の場所では一切やりとりできない。

そして、反省文を書いたら、一度だけ普通のユーザーに戻してあげることにしました。

これが、面白い結果になりました。
戻ってきた人の半分くらいが、ものすごく良心的なユーザーになるんです。

ガイドに書いた長老みたいな役割を、自分から果たすようになる。もちろん削除人はやらせませんが、新しい話題を出してスレッドを立てて、コミュニティを引っ張っていく側に回る。

荒らしをする人と、コミュニティを支える人は、紙一重でした。
締め出そうとしていた相手が、いちばん街を良くしてくれる。

こっちが仕組みで押さえ込もうとしていたものは、そもそも敵ではなかったのかもしれません。お仕置き部屋を作ってみて、僕はそれを勉強させられました。

さて、最後にもうひとつだけ、書かせてください。

削除人は、結局3人採用しました。
みんな、途中でいなくなります。当然だと思います。誰にも言えない、誰にも褒められない仕事ですから。

最後まで残ってくれたのは、1人だけでした。

前回、僕は女子高生を集めるつもりで掲示板を作った、という話を書きました。そして実際に来たのは、まったく別の人たちだったと。

その1人は、女子高生でした。

僕が呼びたかった人が、たった1人だけ削除人として来てくれたのです。その子が、誰にも言わずに、最後までこの街のゴミを拾い続けてくれていたんです。

次回は、ユーザーが勝手に作っていった文化の話を書きます。僕の誤字が用語になった話とか、そういうやつです。