こんにちは、たかしです。
イトキオは匿名掲示板でしたが、2ちゃんねるほどは荒れませんでした。
これ、意外だと思われるかもしれません。でも、理由があります。今回はその話を書きます。少し長くなります。
イトキオは、ケータイ専用の匿名掲示板としてスタートしました。PCからは、最初は書き込みができません。読むことはできますが、書けない。ケータイからだけです。
なぜそんなことができたかというと、当時のケータイは、必ずキャリアのゲートウェイサーバーを経由してインターネットにつながっていたからです。
いまのスマホだと、家ではWi-Fi、外では回線、みたいに切り替えて使いますよね。
当時のガラケーには、そもそもWi-Fiがありません。ドコモの端末はドコモの網から、auの端末はauの網から。それしか道がないんです。
iモードからのアクセスなら、必ずdocomo.ne.jpから来る。EZwebなら、必ずezweb.ne.jpから来る。
どこの誰が書いているか完全にはわからなくても、少なくとも「ケータイから来ている」ことだけは確実にわかったんです。
さらにEZwebには、特殊な仕様がありました。端末そのもののIDが、こちら側に渡されるんです。
しかも当時、PCでは当たり前だったクッキーという仕組みが、ケータイではほとんど使えませんでした。EZwebだけは、それも使えた。
つまりEZwebのユーザーは、端末単位で識別できたということです。しかもキャリアのゲートウェイを通らないとアクセスできないので、なりすましが事実上できない。回線を変える、という逃げ道がないんです。嫌なら機種を変えるしかない。
前回書いた通り、立ち上げ当初はそのEZwebのユーザーが全体の6割でした。
荒れにくい構造は、この時点でできていたことになります。
それから、名前の表示についても工夫しました。
名前を入れずに書き込むと、匿名の名前が自動で付きます。ここを2種類に分けたんです。EZwebから書いた人は「名無しさん」。iモードなどから書いた人は「匿名さん」。
匿名のままでも、どのキャリアから書いているかは、他の人にも見えるようにしました。
PCからの書き込みは、そのあと段階を追って開放していきます。ただし登録制にして、IPアドレスとクッキーでユーザー単位で管理する形にしました。
これで、iモードもEZwebもJ-SKYもPCも、全部揃いました。
誰が匿名で書いていようが、コテハンを名乗っていようが、なりすましをしているかどうかは、こちら側では全部わかる。言い方を変えると、僕は掲示板にいる全員の正体を握っていたということです。
その状態で、サービスを回せるようになりました。
ここからは、もう少し細かい仕掛けの話をします。
前回、書き込みがあるとスレッドが一番上に上がる、という話を書きました。だから更新ボタンを押すと画面が動く、と。
実は、それを切るスイッチも作っていました。「こっそり」機能です。
2ちゃんねるを使っていた方なら、sageと同じものだと言えば早いと思います。
あちらは名前欄にsageと入力する方式でしたが、イトキオではチェックボックスにしました。ケータイで毎回sageと打つのは、面倒ですから。
チェックを入れて書き込むと、そのスレッドが上に上がりません。
これがあると、掲示板の下のほうで、数人だけで延々と会話ができます。特定のスレッドを、自分たちの掲示板みたいに使える。
たくさんの人を無理やり巻き込んでいく「街で話題」みたいな場所もあれば、隅っこで特定の人とだけ話す場所もある。
みんなでワイワイやる場所と、個別にまったり話す場所を、使い分けられるようにしたわけです。
これも荒れを防ぐ仕組みでした。荒らしは注目されたくて上げに来ますから、上がらない場所には来ないんです。
もうひとつ、キャップという仕組みを入れました。2ちゃんねるにもあった、あれです。
匿名掲示板なので、半分以上の人は名前を入れずに書きます。でも、わざわざコテハンを守って書く人もたくさんいました。
そうすると、需要が出てきます。匿名の人でも「自分だけのIDが欲しい」と思うし、コテハンの人は「なりすましを防ぎたい」と思う。
そこで、名前のあとに#と好きな文字列を入れると、それを暗号化した文字列が名前の後ろに付く仕組みにしました。同じ文字列は、本人しか出せません。だから「これは確かにあの人だ」と証明できる。
なりすましによる騒ぎを防ぐ、大きな仕組みになりました。
ただ、僕はこれだけではつまらないと思ったんです。そこで、キャップにランダムでツッコミが入る機能を付けました。
キャップを使うと星のマークが付くんですが、そこに半角カタカナで一言入る。深夜なら「ハヨネレ」、朝になると「オハヨウ」みたいな感じです。
みんな、なかなか寝ないので。
これが、思った以上に効きました。夜中じゅう話していた人が、ツッコミが出た瞬間に「もう寝る」と言って寝ていくんです。
管理人が「寝なさい」と言えば説教ですが、名前の後ろに勝手に付く文字なら、笑って従えるんでしょうね。
名前まわりでは、もうひとつ仕掛けを入れていました。
僕が書き込むと、名前が「たかし」とひらがなで表示されて、リンクが付きます。管理人が書いたものだと、ひと目でわかる。守っていたのは、名前ではなく肩書きのほうです。
誰かが「管理人」と名乗って書き込むと、「似非管理人」と表示されます。削除人も同じで、「似非削除人」になる。なりすましを禁止するのではなく、自動で「似非」を付けて、そのまま出す。
偽物だと書くと角が立ちますが、似非なら少し笑えます。取り締まるより、そのほうがいいと思ったんです。
今にして思うと、このあたりの仕組みは、いまのDiscordのロールとか、Xやインスタ等のSNS認証マークみたいなものの原始的な形だったんだろうなと思います。
コミュニティの中で「この人が誰なのか」を示す方法を、当時はみんな手探りで作っていました。
さて、ここまで散々、仕組みの話をしてきました。
誰が書いたか全部わかる。なりすましもできない。荒らしが上げに来ても、上がらない場所がある。準備は万全です。
ところが、です。
実際に削除しなければならないような問題は、当初はほとんど起こりませんでした。あれだけ用意した仕組みが、ほとんど出番なしです。
揉めていたのは、だいたいアンチの話です。
エンターテイメントのカテゴリでジャニーズとアンチジャニーズが戦う。野球のカテゴリで巨人ファンとアンチ巨人が戦う。そういうやつです。特定のユーザー同士が誹謗中傷をやり合うようなことは、そこまでありませんでした。
たぶんこれ、技術のおかげではありません。ガイドをちゃんと書いていたことが大きかったと思っています。
当時のガイドに、僕は「長老」という言葉をよく使っていました。
イトキオを2ヶ月使ったら、あなたはもう立派なご長老です、と。初心者に優しく対応してあげてください。いざこざがあったら調停してみてください、と。
それから、こうも書いています。イトキオの主力ユーザーは10代です。くだらないと感じる発言や、子どもじみた発言もあるかもしれません。でも過剰に反応せず、なるべく温かい目で見守ってあげてください、と。
荒らしを取り締まる文章ではなく、荒らしに反応しないようお願いする文章です。これが、いちばん効いていたんじゃないかと思います。
それと、これは僕の性分の問題なんですが、書き込みを消すのが、いやでいやで仕方なかったんです。前回書いた通り、当時はパケット代が使った分だけかかります。1行書くのにもお金がかかる。月に10万円払っている人だっている。
その人が、お金を払って書いた1行を、僕が消す。どうしてもできませんでした。
だから、削除は本当に必要な最小限しかしない、と決めていました。それはガイドにもはっきり書いています。
そのガイドには、パケット代のことも何度も書きました。無駄な書き込みや競争はやめましょう、月の後半はみんな通信料を使いすぎてアクセスが減ります、といったことです。
いま読み返すと、掲示板の管理人が書く文章としては、ちょっと変です。もっと書け、と言うのが普通ですから。
さて、そんなことを言っているうちに、ユーザーが増えてきて、だんだん僕の手が回らなくなってきました。
そこで、2ちゃんねるの仕組みを参考にしました。
まず、削除依頼のカテゴリを作りました。消してほしいものがあったら、そこに公開で書いてもらう。それを見て僕が対応する。それも追いつかなくなって、削除人を採用することにしました。
表にはほとんど出していませんが、非公式に募集したら、何人か応募が来ました。
ここが、いちばん悩んだところです。
削除人というのは、人の書いたものを消せる人です。管理人とは別に、消す力を持った人がコミュニティの中にいることになる。それが誰なのか、みんなが知っている。
そうなったら、その人は確実に偉くなります。ヒエラルキーができる。
僕はそれが、心底いやでした。
なので、削除人になる人には、こうお願いしました。
お寺で修行している人とか、ボランティアの人が、朝まだみんなが寝ている時間に、始発が走り出す前の駅前でゴミを拾っている。ああいう仕事だと思ってほしい、と。
誰にも気づかれないところで消してください。そして、自分が削除人であることを、絶対に誰にも言わないでください。
それを究極の秘密として約束できる人だけを、削除人にしました。

いま思うと、ずいぶんな話です。
報酬は出していません。それどころか、パケット代も自腹です。見回って、消すべきものを探して、消す。その通信料は全部、その人が払っている。自分でお金を払って、他人の書き込みを消してくれていたわけです。誰にも言えないまま。
しかも、僕はこの作業をPCからやっていました。大きい画面で、通信料も気にせず。
一方の削除人たちの大半は、ケータイからです。小さい画面を1行ずつスクロールして、開くたびにお金を払いながら、消していた。
同じ仕事のはずなんですが、まるで違います。本当にありがたい存在でした。
さて、そうやって体制を整えていたんですが、荒れは少しずつ増えていきます。特に若い層で、荒れた書き込みをする人が増えてきました。
それと、これは完全に僕の失敗なんですが、他のサイトを批評するカテゴリを作ったんです。そうしたら、よそのサイトで普通に書き込みにくいことを言いたい人たちが、イトキオに来るようになりました。そして掲示板を荒らしていく。
このカテゴリは、2ヶ月で閉じました。
そんな中で作ったのが、お仕置き部屋です。
さっき書いた通り、ユーザーの管理はこちら側で全部できています。誰の書き込みを止めるかも、僕が握っています。
なので、まず書き込みを規制するユーザーのリストを作りました。リストに入った人は、書き込みができなくなる。
ただ、それでも収まらない。
そこで思いついたのが、規制していること自体をコンテンツにしてしまおう、ということです。
お仕置き部屋というカテゴリを作りました。そこは、書き込みを規制されているユーザーだけが書き込める場所です。
規制された人たちは、そこで吠えるような書き込みをしています。それを普通のユーザーが覗きに行けます。ツッコミを入れることもできます。お仕置き部屋の中でだけは、規制されている人と普通の人が会話できる。でも、それ以外の場所では一切やりとりできない。
そして、反省文を書いたら、一度だけ普通のユーザーに戻してあげることにしました。

これが、面白い結果になりました。戻ってきた人の半分くらいが、ものすごく良心的なユーザーになるんです。
ガイドに書いた長老みたいな役割を、自分から果たすようになる。もちろん削除人はやらせませんが、新しい話題を出してスレッドを立てて、コミュニティを引っ張っていく側に回る。
荒らしをする人と、コミュニティを支える人は、紙一重でした。締め出そうとしていた相手が、いちばん街を良くしてくれる。
こっちが仕組みで押さえ込もうとしていたものは、そもそも敵ではなかったのかもしれません。お仕置き部屋を作ってみて、僕はそれを勉強させられました。
さて、最後にもうひとつだけ、書かせてください。
削除人は、結局3人採用しました。みんな、途中でいなくなります。当然だと思います。誰にも言えない、誰にも褒められない仕事ですから。
最後まで残ってくれたのは、1人だけでした。
前回、僕は女子高生を集めるつもりで掲示板を作った、という話を書きました。そして実際に来たのは、まったく別の人たちだったと。
その1人は、女子高生でした。
僕が呼びたかった人が、たった1人だけ削除人として来てくれたのです。その子が、誰にも言わずに、最後までこの街のゴミを拾い続けてくれていたんです。
次回は、ユーザーが勝手に作っていった文化の話を書きます。僕の誤字が用語になった話とか、そういうやつです。
